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酢大使
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2007年02月13日

パツンパツン革命8



カーステレオのラジオから、熊本城の話題は何一つ聞こえてはこなかった。

久保川は、城までの所用時間を計算していた。

ちょうど上熊本駅を城方面に過ぎた所だった。

あと10分かからない程だな。

自分に言い聞かせた。

おもむろに、助手席のカメラに手を伸ばす。

就職が決まった時、父親がプレゼントしてくれたカメラ。

デジカメが主流の中、未だにフィルム式を使用してる久保川は仲間内でも浮いていた。

パソコンが苦手な久保川は、それでよかった。

ワードは、記事を書く為に上司命令で覚えさせられた。

あとは、インターネットで簡単な検索ができるだけだった。

正真正銘の体育会系であった。



久保川は、耳を澄ました。

車の窓は開いてるが、まだ消防車のサイレンはどこからも聞こえてこない。

股に挟んだカメラが、仕事だと訴えている。

サイドミラーを確認して、車線を変更した。

ハンドルの指が小刻みにリズムをとっている。



しばらくして、左手にセブンイレブンが見えた。

この信号を曲がれば城まで直進だ。

城まであと2分。



久保川は気合いの掛け声を一つして、ハンドルを右にきった。






つづく
  

Posted by 酢大使 at 23:42 Comments(0) TrackBack(0)

2007年02月13日

パツンパツン革命7



辛山は、車の後部座席にいた。

秘書は助手席で情報収集に躍起になっている。

今向かっている市役所は、会議があっていたホテルから歩いて10分程であった。
辛山は、一刻も早く状況を知りたかったのだが、テロなのか只の火災かわからない状態で外を歩くのは危険との判断の為やむなく乗車したのであった。

だが、その状況が悪いという事はすぐわかった。

渋滞でなかなか進まない、公用車の横を若者達が携帯で話しながら城の方向へ走っていく姿がいくつもあった。

辛山は腹をくくっていた。

築城400周年のフィナーレの日に、こんな結末とは。

まだ自らの眼前に現れてない城はどんな姿になっているのか?

そんな事はもうどうでもよい事だった。

すべてを受け入れて、最善の指揮をとろう。

それが今、私のするべき事だ。



秘書が通話中の携帯を押さえ言った。

「市長。 もうすぐ見えます。」

辛山は運転席に乗り出すように見上げた。



長い一瞬だった。



辛山の頬に冷たい雫が一筋。

そのインパクトは言葉に現せられない。

熊本のシンボルが、燃えていた。

永遠にあると錯覚していた自分に気付く。

セピアとカラーが激しく混じり合う。



落ち着かせるように、辛山は静かにまぶたを閉じた。






つづく
  

Posted by 酢大使 at 19:46 Comments(0) TrackBack(0)

2007年02月13日

パツンパツン革命6



マウスは、忙しく動いている。

パソコンの画面には、先程届いたメールが映しだされていた。

それと同時に、天守閣に置かれた数台のパソコンが起動された。

古い暗闇の中に新しい光が生まれた。

キーボードを叩く様は、まるでオーケストラの指揮者のようだった。

無駄のない動きが、その者の技量を現していた。

各パソコンはそれぞれの仕事を従順にこなしていた。

口にくわえた煙草が眩しいと感じるくらいの暗闇。

天守閣から見る夜景は、新鮮だった。

そして、不思議だった。



何かが身体の奥底から、呼び覚まされる感覚。

眼下の街を手中にした歴代の主達が見てきた景色。

長い歴史が脈々と流れ、街はうつり変わり、人々は生きてきた。

見下す事はあっても、見上げる事をしない現代。

城は、ただそこにあった。

なにもかも包み込むように、そびえていた。





つづく
  

Posted by 酢大使 at 16:58 Comments(0) TrackBack(0)

2007年02月09日

パツンパツン革命5



熊本城の天守閣は静かであった、まるで暗闇が音を吸い込むがごとく。

長い間、この営みは続けられてきた。

外は三日月。

月明かりが、武者返しを照らしている。

普段と違うもの、それは最新鋭のパソコン数台といくつかの大きなアルミ製の箱が天守閣に鎮座している事だった。

ここ3日間、熊本城は閉鎖されていた。

築城400周年祭のフィナーレを迎えるにあたって、最終的な会場作りの為にである。

いよいよ明日が本番となり、会場は人々を待つだけとなっていた。



何台かあるパソコンの一つがメールの受信を知らせた。

天守閣にクリックの音が響く。




つづく
  

Posted by 酢大使 at 12:09 Comments(0) TrackBack(0)

2007年02月09日

パツンパツン革命4



久保川は、丁度取材が一段落した所だった。

大学を卒業して地元新聞社、『熊本日々新聞』に入社。

学生時代にはラグビーで汗を流した。その持ち前の根性と体力が、この不規則な仕事では役に立っていた。

7年目になる久保川は、毎週土曜の若者向けの記事を任されていた。

若者文化には、初め興味がなかったが取材で若者と接していく度に興味が増していった。

彼等は共通して、若さゆえの情熱なのか、情熱ゆえの若さなのか、何か熱いものが彼等の中には流れていた。

それを感じる度に、なにか清々しい気分になる。

それは、ラグビーでトライを決めた時のそれに似ていた。

今では、熊本の若者文化の一番の理解者になっていた。



久保川は、駐車場に停めていた自分の車に乗り込んだ。

瞬間、携帯が鳴った。

「あっ、久保川さん?お久しぶりです! 」

電話の主は、米山君だった。

彼は、下通りで歌ってるストリートミュージシャンである。

1年前に彼を取材してから、たまに連絡を取り合うようになっていた。

「お疲れ! どうしたの米山君 」

米山はちょっと早口に話し出した。

「今、街にいるんですけど、熊本城が燃えてるんっすよ、何かあったんすか?」

新聞記者の久保川なら、何か情報を知っていると思い電話をしているようだった。

久保川の何かが知らせていた。

「米山君 ありがとう! 今度、飯おごるね」

「あっ、久保川さ・・・」

彼の声の途中でボタンは押されていた。

久保川は、車を急発進させ現場へと向かった。





つづく
  

Posted by 酢大使 at 01:53 Comments(0) TrackBack(0)

2007年02月08日

パツンパツン革命3



その一報が熊本市長の辛山(からやま)に入ったのは、間もなくしてからだった。

ホテル日興では、熊本駅周辺の再開発に関しての会議が終盤にさしかかっていた。

白い一枚のメモが、辛山の目の前に差し出された。

すかさず目を通したが、信じたくはなかった。



『熊本城炎上 詳細確認中』



知らず知らず、何とも言えない声が勝手に口から漏れていた。

予想意外に大きなその声は会議の進行を一瞬止めた。

隣席の委員の一人である婦人が声を掛けてきた。

「辛山市長、どうされたのですか?」

辛山は我に返り少し間を置いて言った。

「会議の途中ですが、退席させていただきます」

会場はざわついた。

それを鎮めるように辛山は言葉を続けた。

「今、熊本城が燃えています」



時間が止まった。

会場はまるで真空のようだった。






つづく
  

Posted by 酢大使 at 14:44 Comments(1) TrackBack(0)

2007年02月08日

パツンパツン革命2



それは大きな破裂音。

聞いた事もない鮮烈な音。

一瞬、時が止まった。



心臓が聞こえる。

体が危険を察知してるのか。

頭がフル回転している。

まるでモーター音が聞こえそうだ。



耳をつんざくクラクションで我にかえった。

すかさず音がした方へ目をやった。



まるでピカソの画。

そんな衝撃と映像。

熊本城が燃えていた。





・・つづく
  

Posted by 酢大使 at 08:14 Comments(1) TrackBack(0)

2007年02月07日

パツンパツン革命



午後の風に癒されてる自分に驚いた。

熊本市内の中心部。

下通りと上通りをつなぐ、スクランブル交差点。

信号が変わり、まるでその瞬間に競走が始まったのごとく歩きだす人々。

道路で待ってる車から微かに聞こえるラジオ。

誰かの香水。

市電の中でつり輪につかまってる人と目が合う。

交差点半ばで必ず思う。

「距離に比べて信号の時間短いわー」等々。

一通りムカツイた後。

僕は、前を向いた。

パルコが左手に見える。

オブジェの球を誰かが回していた。

丁度、交差点を渡り終えようとする時だった。



つづく
  

Posted by 酢大使 at 13:32 Comments(0) TrackBack(0)